学術交流企画「大伴家持の観た万葉の世界―大和から越中へ―」

 7月18日・19日に日本文学科・日本文学専攻と高岡市万葉歴史館との共催で行われた学術交流企画「大伴家持の見た万葉の世界―大和から越中へ―」が盛況の内に終了しました。新泉山館で、18日の午後から始まった展示では「栂尾切」をはじめ、歴史館の持つ貴重な万葉集の断簡が展示され、ガラスケース無しで直接本物を目にできる機会が得られました。大和地域の最初の写真と現在の写真とが並べておかれ、変化を比較できる面白さもありました。石舞台が本来は三層の積みあげであったのが埋め立てられて二層に見える現状に変化したことがわかりは、遺跡保存のあり方を考えさせられるものでした。また、本学出身で元学長の青木生子先生、本学教授でいらした阿蘇瑞恵先生の万葉に関するご業績も展示されました。

 19日のご講演はたくさんの一般の方々がおいでになり、立ち見も出る大盛況でした。


高岡市万葉歴史館館長の坂本信幸先生は、「越中万葉の魅力」と題して、大伴家持越中で詠んだ歌とその歌に詠まれた越中の様々な風物をパワーポイントを使いながら丁寧にご説明くださいました。都人である家持が、当時は鄙の地であった越中の景色の美しさや風物にいかに魅せられていたかが伝わって来ました。

東大教授で家持研究の最先端にいらっしゃる鉄野昌弘先生は「天平の単身赴任−「史生尾張少咋を教喩する歌」をめぐって―」と題して、ご講演くださいました。都に妻の居る部下の少咋が、土地の遊行女婦「左夫流」に迷っていることを、家持は上役として法に照らして説諭しようとします。しかし単身赴任の寂しさ、少咋に尽くす左夫流の状況に、家持は説諭しきれない思いを懐いている。その心情が窺えるという読みを提示されて、家持の人としてのあり方を読み解かれました。文学作品を読むということが人間の心情を知るということであるという、文学の意義を納得させるご講演でした。ご講演終了後、時間を延長しての展示見学に再度足を運んでくださった方もあり、聴衆の方々の笑顔が印象深い中で2日間の企画を終了しました。

 北陸新幹線の金沢延伸により、首都圏と富山(越中)が近くなることを記念する意味ももつ企画でしたが、それに相応しい内容の会でした。