学術交流企画「樋口一葉『たけくらべ』 生成・認知・流通」

 本日(12/21)成瀬記念講堂にて、日本女子大学文学部・文学研究科学術交流企画「樋口一葉たけくらべ』 生成・認知・流通」が開催されました。
 講演会では3名の一葉研究者をお迎えし、『たけくらべ』それ自体の生成・誕生、小説の認知、イメージの流通といったさまざまな切り口からのお話がありました。

 橋本のぞみ氏(日本女子大学他非常勤講師)「変容する語り―『たけくらべ』の生成過程」は、『たけくらべ』の未定稿と定稿の異同を具体的に比較検討し、『たけくらべ』がどのような過程を経て成り立っていったのか、一葉の試行錯誤の跡を検証されました。
 
 笹尾佳代氏(徳島大学准教授)「〈翻訳〉の「たけくらべ」―更新される物語―」は、『たけくらべ』の言語内翻訳(いわゆる現代語訳)やメディアを越えた広義の〈翻訳〉を取り上げ、吉原遊郭にかかわる本作が戦後児童向け図書として流通する背景について迫ったものでした。
 
 そして山本欣司氏(武庫川女子大学教授)「信如像再検討の試み―信如はツンデレか―」は、従来「信如と美登利の初恋物語」という強固な枠組を持つ本作を、七章・十三章に描かれる信如の「恐怖」や九章に綴られる彼の実像に着目し、美登利の好意に気付いていながらそれに応えられない信如の姿を浮かび上がらせ、お三方それぞれの視座から非常に示唆に富んだお話を伺うことができました。
  

 続く新内上演会では、新内千歳派三代目家元の富士松鶴千代氏をお迎えし、新内『たけくらべ』を語っていただきました(鶴千代氏のお弟子さんでいらっしゃる俳優の加藤武氏もサプライズゲストとしてご参加下さいました)。新内節とは江戸浄瑠璃の一ジャンルで、宝暦(1751〜1764)頃富士松薩摩掾の門人鶴賀若狭掾が創始し、哀婉な曲節で人気を得た語り物です。本日は二人の三味線が会場内を流して回る新内流しに始まり、『たけくらべ』の世界が叙情豊かに語られました。普段接する機会の少ない新内節の情感に満ちた語りそして三味線の響きに、年の瀬の慌ただしさを暫し忘れたひとときでした。