学術交流企画「イプセンの女たち―その現代的形象―」
去る12月3日(火)、文学部日本文学科ならびに文学研究科日本文学専攻の学術交流企画 シンポジウム「イプセンの女たち―その現代的形象―」が開催されました。
「現代イプセン演劇祭」の一環として企画された本シンポジウムでは、女性のおかれた環境と演劇芸術の独自性の結びつきをテーマに、ノルウェーを代表する女優で「イプセンの女たち―鷲を駕籠に入れたら―」を演じたユーニ・ダール氏、ルーマニア国立ラドゥ・スタンカ芸術劇場監督コンスタンティン・キリヤック氏、能形式の「ふたりのノーラ」を演じたシテ方観世流能楽師の津村禮次郎氏、そして本学日本文学科教授で女性文学を研究テーマとしている岩淵宏子氏をパネラーに、演劇評論家みなもとごろう氏(本学名誉教授)の司会で始まりました。
ユーニ・ダール氏からは、ノルウェーの観客が必ずしもイプセンを理解しているとはいえない状況下でどのように観客に訴えかけていけば良いのかという問題に対して「劇場の中のイプセンではなく、イプセンをノルウェーの自然に還す」ことの重要性が語られました。キリヤック氏は社会と演劇との関わりについてさまざまな具体例を挙げて説明され、津村氏は能というフレームを用いて作られた「ふたりのノーラ」を演じた立場から、能とイプセンは「過去の出来事が現在において爆発する」ドラマツルギーにおいて似ているところがあることや、現代の女流能楽師のあり方とノーラが重なるというお話がありました。こういったことを踏まえ、岩淵宏子氏からは『青鞜』での『人形の家』合評特集の紹介があり、イプセンとの出会いによって『青鞜』が単なる文芸雑誌に終わらず女性解放運動の原点たり得たという指摘がありました。
さまざまな視点から演劇と社会との関わりについての問題が熱っぽく語られ、シンポジウムは予定の時間を大幅に超過して終わりましたが、その後の懇親会でも活発な議論が繰り広げられました。非常に密度の濃いひとときを共有することができましたことを、スタッフ一同大変嬉しく思っております。このシンポジウムの開催に際してひとかたならぬご尽力を賜りましたノルウェー王国大使館ならびに名取事務所の皆様方に、心より厚く御礼申し上げます。
国語国文学会秋季大会
11月30日(土)、日本女子大学国語国文学会秋季大会が開催されました。
午前の部は大学院生と研究生による研究発表。各人が現在取り組んでいる研究テーマについて持ち時間25分(質疑応答を含め)で発表を行いました。予想以上に多くの来聴者があり、レジュメが足りなくなるという嬉しいハプニングも。レジュメの作り方、持ち時間内にきちんと発表を収めるための努力など、院生はもとより大学院進学を考えている学部生にとっても良い勉強の場となったようです。
午後の部は講演会。
本学教授山口俊雄氏による講演「石川淳「処女懐胎」を読む―奇跡の政治性」は、「論文を書く際の構想過程を知って貰いたい」という趣旨で、キーワード「あこがれ」から見えてくるもの、最後の場面が意味することなどについて示唆的なお話がありました。石川淳作品を読んだことがない学生も多く、当初は難しい内容についていけるか不安だったようですが、わかりやすい説明に興味を惹かれたとのことでした。
雑誌『ダ・ヴィンチ』編集長関口靖彦氏のご講演「本を見つける/伝える」もまた、大変充実した内容でした。
高校生以来『ダ・ヴィンチ』の愛読者だという学生もおり、人気雑誌の編集長のお話を伺えることを楽しみにしておりました。関口氏は雑誌の編集の仕事はどのようなものなのか、面白い本を見付けそれを発信していくためにはどのような工夫が必要かといったことをとても丁寧に説明して下さいました。現在、本は娯楽の中では小さな市場になってしまったと関口氏は仰っていましたが、『ダ・ヴィンチ』のようなカジュアルな文芸誌が面白い本を紹介し続けることが、娯楽としての読書文化の衰退に歯止めを掛ける役割を果たしているともいえるでしょう。
本学科には出版・編集の仕事に就きたいと考えている学生が少なからずおりますが、関口氏の仕事に対する熱意に触れ、この業界で働きたいという気持ちがますます強くなったという学生も。講演会でも懇親会でも関口氏に積極的に質問をする姿が見られました。
ご多忙のところ快くご講演をお引き受け下さった関口様に、学科一同改めて感謝申し上げる次第です。
歌舞伎鑑賞会
本日、国語国文学会主催の歌舞伎鑑賞会が開催され、現在国立劇場で上演中の通し狂言「伊賀越道中双六」を、学生有志で揃って鑑賞する機会を持つことができました。
参加者学生の殆どが歌舞伎を鑑賞するのは初めてということもあり、皆とても興味深そうに舞台を見ていました。特に殺陣のシーンは圧巻で、「生で真剣白刃取りを見て鳥肌が立った」との感想を漏らす学生もいました。伝統芸能という先入観があるためか、学生の多くは「歌舞伎にはシリアスな場面が多い」という印象を持っていたようですが、平作が十兵衛の荷物を持って歩く場面など、観客席が笑いにつつまれるようなコミカルな場面もあることを知って驚いていました。
二等席三等席は学生料金でなら映画を観るような料金で鑑賞できることを知り、参加者は口々に「個人的にまた来たい」と言っていました。学生の特権を大いに活用して、頭の柔らかい大学生のうちにさまざまな演劇の世界に触れて欲しいと思います。
静嘉堂文庫見学
本日(11月14日)、国語国文学会主催の静嘉堂文庫見学を実施致しました。今回は以下の書目を閲覧させていただきました。
1、百万塔及び陀羅尼 神護景雲4年刊
2、古事記(伊勢本)上巻 応永31年写(釈道祥)
3、重文 つれづれ種 永享3年(釈正徹)
4、日本書紀神代巻 慶長4年刊(古活字・慶長勅版)
5、通小町 慶長中期刊(古活字・嵯峨本)
6、羅生門(奈良絵本) 江戸時代前期写
7、源氏物語 附朱塗蒔絵箪笥54巻 江戸時代写
8、呉竹舎漫抄 日尾荊山撰 写(直筆)
9、竹のした風 日尾邦子撰 写(直筆)
漢籍
1、重文 白氏六帖事類集 北宋刊
司書の成澤麻子様が、ひとつずつ、大変詳しく解説をしてくださいました。
写本は、絵入りのものは勿論ですが、正徹本の徒然草の流麗な筆致や、嵯峨本の「通小町」の雲英を押した料紙と巧みな活字は美しく、学生一同、感嘆の声をあげておりました。
また、今回は貴重な版本を三種類も見せていただきましたが、なかでも静嘉堂文庫が誇る宋版の逸品、白氏六帖事類集を間近で拝見させていただけたことはまたとない経験となりました。成澤様のご説明をうかがうと、宋版をテキストとし科挙に臨んだ宋代の受験生の姿が髣髴とするようでした。
また、福田先生からは、静嘉堂文庫が松井蔵書に日尾荊山・邦子夫婦のまとまった蔵書を抱えていることや、特に女塾の衰退と女子大学の勃興の関係性などについてのお話がありました。
参加した学生は、ひとつひとつに好奇心旺盛な眼差しを向け、解説に聞き入っておりました。成澤様には、学生の質問にもご丁寧にお答えくださり、心より感謝申し上げたく存じます。
国語国文学会秋季大会のご案内
修士論文中間発表会・博士後期成果報告発表会
日本文学専攻では、恒例の修士論文中間発表会ならびに博士後期成果発表会を開催致しました。教員・大学院生のみならず、来年度大学院に進学予定の学部生も聴講に来ており、真剣な表情で発表に耳を傾けていました。
まず、今年度修士論文を提出予定の博士課程前期2年次の院生7名が、修士論文の論題・目次と現段階での研究成果を発表し、今後の見通しについても所見を述べました。質疑応答を通じて今まで気付かなかった問題点や新たなアプローチが見えてきたケースもありました。
引き続き、今年度で満期退学予定の博士課程後期3年次・鴨川都美氏の成果報告「村山知義『太陽のない街』脚色─原作との差異を中心に─」があり、作品の丁寧な読みに裏打ちされた非常に説得力のある発表に刺激を受け、フロアからもさまざまな質問が飛び出しました。今回の発表は、今までの学会発表や学会誌に掲載された論文と併せていずれは学位請求論文としてまとめられることになりますが、鴨川氏が今後さらに研鑽を積まれ、村山知義研究を切り拓いていかれることを願ってやみません。
クリスティーナ・ラフィン先生講演会「世界の阿仏尼―日本中世女性の文学をグローバルに考える」
先週の大学院生向け講演会に引き続き、今回は、クリスティーナ・ラフィン先生に学部生向けに「世界の阿仏尼―日本中世女性の文学をグローバルに考える」というタイトルでお話をしていただきました。パワーポイントを駆使して、ビジュアル的にも遊び心あふれるご講演で、学外からのご来聴者も多くいらっしゃいました。
始めに『源氏物語』のように世界各国で翻訳され、カノン化される古典文学が少ないという現実的な問題について言及があり、「ムラサキシキブ」と「ムラカミハルキ」が日本を代表する文学であるという認識が一般的である現状で、先生のご専門である女性文学という立場から、阿仏尼を「世界文学」という視点でどのように読むかという戦略的な問題についてもお話いただきました。
我々日本人にとってはあまり馴染みがない「世界文学としての日本古典文学」という概念や、「世界文学」という視座で研究を考えた場合、どういう枠組みを作ってそこにはめ込み提示すると効果的であるかを考えながら研究を進めていく必要があることなど、グローバル化が叫ばれる昨今、とてもためになるお話を伺うことができ、非常に有意義な時間を持つことができました。ラフィン先生には心より御礼申し上げます。